雀の子降る季節(最終)

ぴーちゃんは、完全に人間になつきました。
おいでと呼べは一目散にやってくる。そしてひとりでケージに入ってゆく。
ぴんちゃんは、全然人間になつかない野生の雀。けっしてケージから出てきません。
でも2羽はとっても仲良しで、いつもジュルジュルとお喋りをし、夜はくっついて寝てました。
2羽ともふっくら太って健康そのもの。
風きり羽も生えて、巣立ちオッケーの時期になっても、あまりの可愛らしさにぐずぐずと手元においていた時期に、わたしは大変な間違いをしてしまったんです。
野生に帰れば生きた虫も食べなきゃいけなだろうからと生餌を探してきたのです。
友人の庭のつつじに大量に発生した青虫を食べさせたんです。
(あとで調べたら、これはハチの幼虫でした。たべていいのはモンシロチョウの青虫)
ピンセットで差し出すと、案の定ぴんちゃんは口すらあけませんが、ぴーちゃんは大きな口をあけておいしそうに何匹も丸呑みしました。
たらふく食べた後、虫を食べたぴーちゃんの様子がおかしくなりました。
体を膨らませて、いかにも苦しそうに目をつむり、いきなりさっき食べた青虫をげーっと吐き出してはげしく痙攣したと思うと止まり木からぽとりと落ちた。
あわてて手の中にすくうと、すでに意識不明。
いつも能天気な上の娘がそれを見ておおきな声で泣き出しました。「おお~~~ん!!おお~~ん」
その声をききつけた隣の牛乳屋の奥さんが、「どうしたの、事故でもあったの?」と駆けつけてくれました。
顛末を話すと、「効くかどうかわからないけど、万田酵素を飲ませてみる?」というので、すこし貰ってスプーンでちょっとだけくちばしの中に流し込む。
どのくらい時間が経ったか。。万田酵素が効いたのか、それともすぐに吐き出したから助かったのかわかりませんが、しばらくするとぴーちゃんは意識をとりもどし、夕方までには止まり木にとまれるほどに回復しました。
やっと娘も泣き止みました。
それから何日か、ぴーちゃんは時々痙攣してとまり木から落ちていましたが、それも少しずつ減ってゆき、またもとのような日常に戻りました。
梅雨もすっかり終わり、暑くなってきた頃だったと思います。
雀たちは水浴びが大好きでした。
わたしは午前中仕事に出ていたので、雀たちが自由に水浴びできるように、浅いお皿にほんの1cmほど水をはってケージに入れてでかけていました。
ある日、会社から帰ってみると、、、
そのお皿の中にでぴーちゃんは惨めに濡れて死んでました。
ぴんちゃんは怪訝そうに首をかたむけて見るばかり。
私は咄嗟に「また子供を泣かせてしまう!」と思いました。
みじめに濡れて死んでいるぴーちゃんをドライヤーで乾かしてふかふかにしました。
小学校から帰ってきた娘は、死んで箱に入ったぴーちゃんを見てもなぜか泣きませんでした。
でも今度は私が泣きたくなりました。ひょっとしたら泣いたかもしれません。
『つつじの青虫、鳥も食べない毒虫だからあんなに沢山いたんだよ。親代わりなんておこがましい、子供に毒を与えてしまったじゃないか。それに、痙攣して落ちる恐れがあるのに、どうしてケージに水を入れてしまったんだろう』と後悔ばかり。
2羽の時はあんなに賑やかにお喋りしてたのに、1羽だとケージは静まり返り、しかも、ピンちゃんは私を愛していない。
もう手放そう。
もっと早くに手放せはこんな事にはならなかったんだと思いました。
すずめを放す前日、わたしは雀を社宅の空き部屋に放して、すごいけんまくで追いかけまわしました。
人間は怖いぞ!
人間に気を許すな!
人間が近づいたら逃げろ!
野生の雀の親なら必ず伝える事をぴんちゃんに伝えたかったんです。
次の日、子供と一緒に動物園に連れて行きました。
動物園なら、鳥の檻は雀サイズには出入り自由。
餌はいくらでもある。
親から知識を与えられてなくてもけっして飢える事はない。
箱からだしたピンちゃんは、こちらを振り返ることもなく一直線に藪の中に消えてしまいました。
たぶん、ぴんちゃんは生き残ったと思います。
生き残ってしぶとく子孫を残せたんじゃないかと思います。
これで私のすずめ話はおわりです。